だんしんきょう 令和5年 6月号

開催日:2023年06月01日

清水元喜氏
全国檀信徒協議会常任委員
静岡県西部檀信徒協議会長
掛川市正願寺総代・護持会長

さまざまなご縁によって生かされる

 勝手ながら檀信協活動から少し離れたことを書かせていただきます。
 私は太平洋戦争開戦直前の昭和16年(1941)に静岡県に生まれました。同年輩の皆さんと同じように幼少期に体験した防空壕、空襲警報、B29編隊の残した飛行機雲、夜空を真っ赤に染めた静岡大空襲などを、今のウクライナの惨状と重ね合わせて思い出しているこの頃です。
 私は風邪とか怪我で医者の世話になった以外、病院通いをしたことがありませんでした。ところが70歳を過ぎるころに健康診断で不整脈が出るようになりました。精密検査を受けたところ原因がわかり手術することになりました。ろっ骨を開胸し、心臓を人工心肺に切り換えるという大手術でした。
 翌朝、全身麻酔が解かれ覚醒したときにチーフドクターから「気分はどうですか、ここがどこかわかりますか」と問いかけられました。私が的確に答えると、ICUのベッドのまわりで見守っていた10人ほどのスタッフが拍手で祝ってくれました。私は感動して涙が出ました。
 後に宗門運動の「いのちに合掌」という言葉に出会った時、まさにあのときの自分の心境だったと思いました。以来、さまざまなご縁によって生かされている自分であり、いのちとは何ものにも替えがたい有り難いものだと感謝して、毎朝手を合わせて1日が始まります。
 最近、『80歳の壁』という本を何度も読み返しています。著者の和田秀樹さんは東大病院精神神経科を経て高齢者専門の精神科医として6千人以上の患者を診察した医師で、診療経験をもとに書かれたそうです。まず冒頭で高齢者、後期高齢者という言い方は大変失礼だとし、筆者は80歳を超えた人を「幸齢者」と呼ぶようにしているそうです。
 認知証、高血圧、高血糖値、高コレステロール、体脂肪、骨粗しょう症など老人を不安に陥れるような言葉が蔓延し、それに呼応するサプリメントの広告が飛び交っています。和田先生は、健康診断で表示される数値の許容範囲はあくまでも日本人全体の平均値であり、人体にはそれぞれ特性があり、無理に平均値の枠内に保つ必要はないといいます。コレステロール値の高い患者が薬で値を下げたところ認知証が急速に進行した例もあるそうです。コレステロールは脳細胞の栄養源でもあるからだそうです。私は物事を楽観的に考えるタイプだと自分で思っていましたが、この本と出会い、一つの考え方として読むほどに楽しくなり、何度も読み返し悦に入っているところです。
 「生老病死」は誰にでも訪れる避けられない問題です。この4つの苦に向き合う心構えを育て、安穏な気持ちで日々を送れる道筋を示すのがお釈迦さまの教えであり、お題目です。
 不穏な世界情勢が1日も早く収まり、安穏な世の中が訪れることを願い、お題目の心に少しでも近づけるよう今後の人生を過ごしたいと思っています。

一覧へ