石川俊幸 氏
全国檀信徒協議会常任委員
山梨県南アルプス市法音寺筆頭総代
昭和8年8月11日生まれ
趣味:陶芸、読書
昨年12月上旬、南アルプス連峰の山麓、中山間地帯に白の浄衣を身に纏った一行がいました。先頭には「南無妙法蓮華経」の玄題旗が一対、菅笠下駄履きの先達僧が頭上高く掲げたうちわ太鼓の強いリズムに合わせ、総勢200余人の打つ太鼓の響きと唱題の声は静かな山郷の家々にこだまし、冬枯れの野面を遠く流れていきます。
これは、私の所属する山梨第3部宗務所と檀信徒協議会の年末助け合い行脚のひとこまです。
南東には朝日を浴びた霊峰富士の勇姿が、そのはるか彼方には、宗祖日蓮聖人降誕八百年の慶事を迎える誕生寺、清澄寺の大本山、2ヵ寺のある房総の地へと思いをはせながら行脚は寺から寺、集落から集落へと約4㌔の歩みを続けてまいります。
沿道には一行を待ちわびるように善男善女の信徒が、お題目を口ずさみ、合掌しながら手にした浄財を募金かごに投じていきます。この無心な姿に仏の心を覚えます。
この時の募金は年初頭からのほかの募金とともに、地方紙の厚生事業団を通じて各被災地に寄託されますが、今回は100万円を超えました。特にその中に、1円、5円、10円、100円などの硬貨が10数万円分ありました。枚数は判りませんが数千枚はあったと思います。1枚1枚にこめられた多くの人の善意と温かみを感じます。
人間は群れをつくって生きる生きものだといわれ、その基本は助け合うことだと思います。だれかの役に立ちたい、だれかの力になりたい、それは物であれ心であれ違いはないと思います。また贈られたらお返しをする。これもまた人類の大昔からの文化であり、贈る、いただく、返すという3つが循環し反復すると文化人類学者も申しています。
思えば昨年は「災」の字で表したように、多くの災害がありました。日本列島の北海道から九州まで、なんとまあ多かったことか。被災地のみなさんに笑顔がよみがえることは、未来永劫にわたって救済活動をつづける永遠の仏といわれる聖人の願いでもあると思います。
この歳末行脚の歴史は知るよしもありませんが、私の参加は今回で連続7回を数えます。甲州名物からっ風の吹きすさぶ中、市街地の交通渋滞などに悩まされることもありましたが、一方、棚田の広がる田園地帯を冠雪の富士を見ながらの行脚は、日本の原風景との遭遇であり、またふるさと再発見にもつながります。
お題目という共通信仰を持ちながら僧侶檀信徒一体となって行動をともにするこの行脚が、いつまでも続くことを願ってやみません。
「百人千人なれども一つ心なれば必ず事を成す」。目の前の今年のカレンダーの聖人のお言葉が目に飛び込んでまいります。