NHK第113回『連続テレビ小説』「ばけばけ」は、松江士族の娘 松野トキ(演者:髙石あかり)と外国人の夫 レフカダ・ヘブン(演者:トミー・ バストウ)の夫婦の物語を描くフィクション・ドラマとして、本年(令和7年)9月26日から放送が始まりました。主人公・松野ときのモデル(実在人物)となったのが小泉せつ(1868-1932、節子)、レフカダ・ヘブンのモデルとなったのが小泉八雲ことラフカディオ・ハーン(1850-1904)です。
ハーンは、明治23年(1890)に来日したギリシャ生まれのイギリス人で、新聞記者・随筆家・小説家など多彩な顔を持ち、特に日本に古くから伝わる怪談物の口承説話を記録・翻訳し、世に広めたことで知られています。来日当初、島根県松江の師範学校で英語の教師をしていたのですが、日本文化をこよなく愛し、最後は日本人に帰化して、日本人として、この地で歿しました。まさに日本贔屓の外国人のひとりであり、特に日本人の宗教観や精神文化に興味を抱き、学校で教鞭を執る傍ら研究を続け、たくさんの手記を残しております。
日本海側から吹く風に乗って八雲山周辺にもくもくと立ち上る雲(Google Earthより)
当山住職も、寺で営まれる法事の折に、しばしばハーンの手記の一節を紹介しておりますが、彼の目に映った当時の日本人は、目に見えない物に対する感謝の念や畏敬の念を大切にし、祖先や先人をいつまでも「家族の一員」と見なす祖先観をもった民族でした。
恐らく、当時の日本人にとっては、ごく当たり前の姿であったと思うのですが、それが外国人のハーンの目に、そのように映ったということは、どういうことを意味しているかというと、当時の世界中の先進国と言われるどこの国を訪ね歩いても、これほどすばらしい宗教観、いじらしい精神性をもった民族は、日本を除いてどこにもなかった、という手放しの絶賛だということです。
以前、コチラの記事にも紹介しましたが、日本人にとって故人や祖先は、決して「過去の人」ではなく、今も私たちに寄り添い共に生き続けている「現在の人」であり、そして、いずれこの世を去るときが来たら、来世に再会を果たすことになる「未来の人」なのだという意識を、我々の先人達は持っていました。そのことを言葉に残した外国人のひとりが、ハーンだったのです。
ハーンが、当時の日本人の先祖崇拝や家族制度、日本における神道・仏教・儒教・キリスト教の受容など、日本の精神世界の展開を論じた手稿は、ラフカディオ・ハーン著・柏倉俊三訳『神国日本:解明への一試論』(平凡社、1976年)に纏められております。
一方、ドラマの主人公・松野ときの実在モデルとなった小泉せつ(節子)は、出雲松江藩の家臣小泉家の次女として生まれます。出自の詳細については、コチラの記事をご参照ください。
彼女は英語が不得手でしたが、ハーンの語る片言の日本語を正確に理解し、夫婦は互いに意思の疏通がはかれたそうです。ハーンの代表作『知られぬ日本の面影』執筆を契機に、彼の主要作品に素材を提供し、その著作活動に協力しました。伝承だけでなく当時出版されていた書物の内容を、せつが自身の言葉で語る「語り部」となって、ハーンに伝えたと言います。言葉の壁を越えた、ふたりの絆の強さを物語るエピソードとなっています。
なお、台東区には、要伝寺から徒歩15分ほどのところにある国立国会図書館国際子ども図書館(台東区上野公園12-49)に小泉八雲記念碑が立っています。国際子ども図書館は、かつての上野帝国図書館で、宮澤賢治が、大正10年(1921)7月、心友・保阪嘉内(1896-1937)と決別したのも、この上野帝国図書館でした(賢治・嘉内については、コチラやコチラの記事も併せてご高覧ください)。同館は、来年(令和8年)開館120周年の大還暦を迎えます。




