有賀 一夫 氏
全国檀信徒協議会常任委員・会計
身延山本願会相談役
京都市本妙寺総代
昭和10年10月2日生まれ
趣味:俳句、読書
水のような心で
法華信者の信心の心得
「岩かげにしたたり落つる山の水大河となりて野を流れゆく」
天皇陛下のお歌であります。(平成29年歌会始、当時は皇太子殿下)
西暦2019年・皇紀2679年・平成31年は5月から新しい年号「令和」に変わる大きな節目の年です。天皇陛下はこのお歌のごとく「清い水のようなお心で」美しい風土に限りない感謝と尊敬を持ちながら、国民の安寧と幸福をお祈り下さると存じます。
日蓮聖人のご遺文『上野殿御返事』を読ませていただきました。
今の時、法華経を信心する人びとの中には、火のような信心をする人と「水のように信心」する人があります。法華経を聴いた時にはその素晴らしさに感動し、燃え立つほどに熱心に信仰しますが、少し遠のくとだんだん冷めて、ついには法華経を捨ててしまうことになります。
水の信心というのは、いつも絶えず心にかけて忘れないことをいい、まさに水の流れのようにいつも変わらぬ信心が大切だとご教示されておられます。
私は信州安曇野穂高の出身です。北アルプスの豊かな伏流水に恵まれ、山葵を栽培しています。故郷の自然に感謝、水に感謝の日々を過ごしています。子どもの頃から両親に水の大切さを教わりました。水は人に計り知れない恩恵をもたらします。水には煩悩や欲望の垢を洗い落とす力があります。お墓に注ぐ水、お仏壇にお供えする水、お上人が水行でかぶる水。水は万物を潤わせ、活力を与えてくれます。「水のようにいきいきと・水のように力強く・水のようにこだわらず・南無妙法蓮華経」と、大本山池上本門寺の「水のこころ」にも示されています。
また、学生の頃、恩師から「人に恩恵と脅威をもたらす水の性質をかりて人生の教訓とした黒田如水の『水五訓』を学びました。
一、みずから活動し他を動かしめるは水なり
一、常におのれの進路を求めてやまざるは水なり
一、障害にあって激しく勢いを百倍し得るは水なり
一、みずから清くして、他の汚濁を洗い清濁あわせいるるは水なり
一、洋々として大海を満たし、発しては霧となる凍てては玲瓏たる鏡となり、しかもその性を失わざるは水なり
今もこの『水五訓』を私の座右の銘といたしています。加えて仏法の通則と高祖の説示「二則」とで法華経信者の信心の心得としています。
一、高きより低きへ、浅きより深きへと流れて自然の法を示す
一、日蓮聖人の言葉を加えて曰く、垢穢を浄むることを以て行と為す
このように「『水五訓』のような法華経の信仰」こそが煩悩の垢穢を浄め、仏心の宝珠を輝かしめ、自己の品性を陶冶し人格を錬磨して「八風吹けど動ぜず」真の「安心の決定」を私たちに与えてくれます。そして、絶望で悲嘆にするとき、痛恨して慟哭せんとするとき「水のごとき信仰は、必ずや私たちに救護への道を開く」と信じます。
令和元年。いのちに合掌・お題目結縁を目指し、降誕八百年に向け「水のような心」で「世界の平和」を祈りましょう。