「毎朝、仕事前に仏壇にお線香を供えお題目を唱えると、心が大変落ち着くんです。」と温かな表情で話すのは、京都市岡崎満願寺の檀信徒、濱本信博さん(74)。京都の伝統工芸の一つである友禅作家として全国各地の百貨店や着物の専門店で展示会を開催。
またパリで行われた展示会のポスターにも選ばれるなど世界的に活躍している。幼少の頃から絵を描くのが好きで、よく日展に足を運んでいた信博さん。18歳で着物の図案を創作する家業に就くと、その後、友人から誘われ友禅の技術も修め、今や全国で唯一の手描き友禅で図案から染色まで全てを一人で手掛ける。唯一無二の一点物の着物は多くの人に愛されている。
石川県七尾にある実家は他宗派だが、次男が本山立本寺で出家したのを機にお題目とのご縁をもった。当時、出家を志した次男に、「自分の人生だからやりたいことにチャレンジしなさい」と一番に背中を押した。次男が寺族の養子となり濱本の姓から藤井へと変わった時は、「私の母方の姓も藤井であり、不思議と違和感はなかった。何かご縁があったのかな」と笑顔で語る。
お題目の信仰を深めていく中、本山立本寺の塔頭の教法院に襖絵を寄進した。教法院の本堂を上がると、一番に目を引くところに信博さんが描いた龍の襖絵がある。お寺の襖絵を描くのは初めであった信博さん。信仰となる場所に描く龍の表情を、どのようにするかイメージを膨らませ思案し、また思案することも楽しみ制作した。描かれた龍の表情は、檀信徒を見守るような優しさと力強さを兼ね備えた表情に仕上げた。
平成二十年、秋の彼岸会に合わせてその襖絵の開眼法要を行った。その際に、不思議な出来事が起きた。その日は秋晴れ。しかし、開眼のお経が始まると、急に雲が立ち込め辺りが暗くなり、ぽつぽつと雨が降り始めた。次第に雨脚が激しくなり、雷までも鳴り始めたのである。その後、お経が終わると嘘のように澄んだ青空に変わった。法華経には、お釈迦様の説法の場に八竜王が教えを聞いていたと記されており、龍は仏教を守護し、雲を呼び雨を降らせる神力をもっていると考えられている。そのため檀信徒の皆さんは大変驚いた様子で、その場に立ち会わせた信博さんも当時の事を「とても印象的で心嬉しかった。ご住職と、お魂が絶対に入ったと喜んだ」と心躍るように振り返える。
友禅作家として五十年以上が過ぎた。思い返すと二十代で結核を患ったり、仕事先で倒れ病院に運ばれたりしたこともあった。「今では元気にお題目をお唱えできることが嬉しい。守られていると感じる」と語る信博さん。信博さんの工房のホームページ(hamamoto.jp)には「てくてくてく 人の歩くはやさは変わらない。人にやさしく、人にあたたかく・・・」と書かれている。次男の出家を機に仏道を歩まれ信博さんは、お題目とのご縁を大切にこれから先も温かな作品を創り上げていく。