相談室を開設しました

この記事は最終更新日から1年以上経過しています。
記事の内容やリンク先については現在と状況が異なる場合がありますのでご注意ください。

この度、家庭児童相談室を自坊内で開設しました。

大阪は八尾市龍妙寺(芦田勝康住職)さまの「心のきずな相談室」を基幹相談室として、この地で活動して行きたいと考えております。もちろん町外の方でも構いません。相談室の名前は特に決めておりませんが、いずれ立ち上げる予定の治療院と併設することになるので、治療院名と同じになると思います。
 
私が相談員の資格を得ようと思い立った理由の一つに、病院勤務(リハビリ科)時代の苦い経験があります。昔、関東の総合病院でご一緒だったある患者さんのこと。
脳梗塞の後遺症で中等度の片麻痺になってしまわれたおじいさんなのですが、自分のリハビリだけでも大変なのに、何時もジョーク交じりに他の患者さんを励ましているような方でした。だから、彼がいるリハビリ室には笑いが絶えない。体調が優れずリハビリを休まれた時には、心配した患者さんが彼の病室に見舞いに行くほどでした。
そんな彼も、病院内での一本杖歩行がほぼ自立されるまでに回復されました。いよいよ退院の日を迎え、リハスタッフや親しい患者さん一人一人と握手したりハグしたりして、今後の健闘を称えあったものです。それから1年~1年半ほど経った頃だったでしょうか。それまで時々外来通院されていたのに、パタッとお見えにならなくなり、スタッフの間で心配し始めていた矢先のことでした。同居していた唯一の身内である息子さんが、何らかの理由で家を出てしまい、悲観した彼が自死したという知らせが我々のもとに届いたのです。
 
人は或る日、思わぬ大病を患い、生活の行動範囲が著しく制限されます。仕事や学業、地域交流や趣味、子育ても介護も、恋愛に至るまで、生活に関わるあらゆるものが停止し、社会生活からのリタイアを余儀なくされます。そして、多くは医療機関において、社会復帰や家庭内復帰を目指し、セラピストとのリハビリが始まります。
健康体そのものだった彼も同じように、突然病魔が襲い、今まで経験したことのないような不自由な生活を強いられた上に、種々の後遺症が彼の精神を傷めつけました。葛藤や憤り、挫折感、失望感などに苛まれながら、孫の様な若いセラピストに毎日様々なトレーニングを指導されることになります。それでも彼は、同じ患者さんの前では決して弱さを見せず、自らリハ室でのムードメーカーを買って出たのです。「泣いて消えたしまいたいくらいだけど、皆さん同じ気持ちだから。」と、ポツリとこぼした彼の言葉は今でも忘れません。
そして、不自由な足を一歩踏み出そうと、言葉に尽くせぬほどの努力を日々積み重ねられて、ようやく念願の家庭に戻られたのに、僅か一瞬のうちに人生を閉じられてしまいました。私たちはただ呆然と立ち尽くし、スタッフの中には思わず泣き伏す者もいました。
「なんで?!」「信じられないよ!」あの時は、ただ持って行き場のない憤りのような感情しか湧いて来ませんでしたが、何日かして冷静に考えてみました。
 
先に触れました通り、病院に担ぎ込まれ、病状が安定した時点から、我々と患者さんとの接点が生まれます。発症前に置かれていたそれぞれの環境は、患者さんにより異なります。例えば社会的に高い地位にあった人や生活地域で中心的役割を果たしていた人、家庭を切り盛りしていた人、配偶者や両親の介護をしていた人などなど、何かしらの責任や役割を背負って生きて来た人たちが、突然それらの鎧を剥ぎ取られ、無防備な姿で病床に横たわることになります。メンタルの浮き沈みを繰り返しながら、復帰に向けてのリハビリを二人三脚で積み重ね、或いは苦しい胸の内を伺ったり、或いはご家族からの相談を受けたり、そしてリハの進捗状況により退院の目途も立つ訳ですから、セラピストとの心的なつながりが医師や看護師より強くなることもあります。
しかし、実際に我々が患者さんに関わる時間というのは、長い人生の中で、ほんの僅かな刹那的な重なりでしかありません。退院後は、月に何度かの通院の際にお顔を見る程度で、接点もほとんど無くなります。当時は介護保険施行前のことでしたので、在宅で受けられるサービスも限られており、施設利用も「措置制度」と呼ばれる悪しきシステムの上に成り立つ時代でした。リハスタッフが退院後のご家庭で、支援に直接携わることは少なく、ごく一部のケースだけでした。病院を退院して外来通院も少なくなれば、その方のお家での事情は何も分からなくなってしまっていました。そして我々も、次々と依頼される新患さんの対応に追われ、気にも留めなくなっていました。
本来、リハビリテーション(rehabilitation)の「re」とは「再び」、「habilis」とは「適した、相応しい」ということを意味します。即ち、再び適した状態に戻す、回復することを指します。しかし、入院加療中に身体機能面の回復がある程度達成されても、在宅療養における精神面のフォローや、日常生活での運動機能の実用度は、必ずしも適切にモニタリングされて来ませんでした。もちろん患者さんを支えるチームの中には、メンタルケアや退院後のアドバイスを担当するセクションはありましたが、もっともっと身近に寄り添える場所が用意されていたなら…
彼の死を目の当たりにして、皆そんな思いに駆られていました。
 
2000年に介護保険法が施行されて以来、ご本人やご家族の希望に沿い、様々なサービスが導入出来るようになりました。そのサービスと利用者のパイプ役となるのが「ケアマネージャー」です。長引く在宅療養生活において、自宅介護の杖柱となる存在です。介護保険法の施行に合わせてケアマネの資格を取り、そしていつの日か自坊に戻り福祉施設を開く見通しが立った時、治療院とこの相談室の併設を念頭に置いていました。
微力ではありますが、どんな内容でもお話を伺います。仏教について、家庭のこと、お子さんのこと、日常における些細なことでも構いません。ご相談の内容につきましては決して外部に漏れることはありませんので、お気軽に相談室まで足を向けていただければ幸いです。
れんげ寺相談室(仮)
【基幹相談室:心のきずな相談室】
〒563-0361
大阪府豊能郡能勢町今西203-5 蓮華寺内
☎℡   072-734-0109
☏Fax 072-734-0509
✉ lotusandwaterlily@zeus.eonet.ne.jp

この記事は最終更新日から1年以上経過しています。
記事の内容やリンク先については現在と状況が異なる場合がありますのでご注意ください。

一覧へ