先日、満中陰の法要を勤めた折、お家の方がこの地方に昔から伝わる『笠の餅』を用意しておられました。
私はそのような風習があることは存じ上げておりましたが、実際に拝見したのは初めてでした。最近ではあまり見かけなくなりましたし、特に自坊のある西能勢地区ではそのような習いを知る人自体少なくなっています。たとえ知っている方でも、実際に用意される方はほとんどいらっしゃらないでしょう。
『笠の餅』(満中陰の餅)は、四十九個の小餅を搗いて、別に一つだけ特に大きく平たくした丸餅を作ります。それを笠を被せたように小餅の上に重ねてお供えします。法要が終了してから、その丸い笠餅を人型に切り、蓑と笠を着た旅立ちの姿を作ります。
今回のお家の方も、お餅を用意はしたが実際にどのように扱うのかまではご存知ありませんでした。私は師父の話や管区の教本から、大体の由来や作法を見聞きし、いつも持ち歩く“虎の巻”に記しておりましたので、慌てることなく対処出来ました。
満中陰には、ご自宅やお寺での法要に墓地での納骨、その後には清宴があり、料理屋さんなどに宴席が予約してある場合には、時間との戦いになることもよくあります。
『笠の餅』を最初に目にした時には、「はて、どうしたものか?!」と一瞬怯みましたが、「廃れつつあるこの地方の風習を、折角故人のためにご用意下さったのだから、昔の通りに再現してみよう!」と腹を括りました。
ご自宅での法要後、笠にしている大きく平たい餅を、まな板の上で人型に切り、笠と蓑をまとった旅人が出来上がると、参列者の方は「おお~っ」と声を上げながら、餅の周りに集まってこられました。
笠と蓑を残した体の部分の内、参列者が自分の調子の悪い箇所をちぎって食べることによって、その悪い所を亡くなった人が持って行ってくれるということ。
忌中の間は、亡くなった人がまだその家の棟にいるから、蓑と笠はその家の棟に向かって投げ、そうすることにより故人は旅支度を調えて旅立てるということ…などを説明しました。
皆さん熱心に聞いて下さり、質問される方もいらっしゃいました。私にとっては、思わぬ成り行きと、大変に嬉しい反響でした。
段取りなどを理由に、そういった慣習を簡略化せず、参列者の方々の前で古くからの“しきたり”を再現出来ましたことを心より感謝致します。