客は大いに怒って、顔色を変えて言います。上は天皇から下は一般庶民まで、全ての人が仏像を崇め、経巻(きょうかん)を尊んでいます。舎利弗(しゃりほつ)のように智慧を磨いて、仏の真実の教えを学ぶ僧もいれば、迦葉(かしょう)のように戒律を重んじる僧もいます。このように日本の仏教は盛んであるのに、誰が仏教を軽んじ、仏法僧の三宝(さんぼう)を絶やしたと言われるのでしょうか。証拠があれば言ってください。
主人は客を静かに諭して言います。確かに日本は仏教が栄えているように見えるが、それは表面的なことであり、内実は僧侶は諂(へつら)い邪(よこしま)で、人を惑わし、国王もその臣下も愚かで、その内容の正邪(せいじゃ)を見分ける事が出来ないのです。
仁王経(にんのうきょう)の嘱累品(ぞくるいほん)には、
「多くの悪僧(あくそう)が自己の名誉や権利のために、国王などの権力者に近づいて、自分勝手な教えを説く」
と説かれ、涅槃経(ねはんきょう)には
「凶暴な象より、悪師(あくし)を恐れよ」
法華経・勧持品(かんじほん)には
「悪僧は悟ってないのに悟ったと言い、真実の教えを説く僧を迫害するであろう」
と説かれているのです。
これらの経文に照らして今の世の中を見ますと、まさに今の仏教界もこの通りであります。それゆえに悪僧、すなわち謗法(ほうぼう)の人を諫(いさ)めないで、どうして善いことができましょうか。