当山第38世高森日妙上人の祖父(39世日宏上人の曾祖父、現董の高祖父)と伝えられる川路聖謨(かわじ としあきら)を扱った特集番組が、このたびNHK Eテレ「先人たちの底力 知恵泉(ちえいず)」にて、下記の通り放送されました。
激動の江戸時代末期に、貧しい出自ながら苦学して身を立て、ついには大国ロシアとの対外交渉を任されるまでになった幕吏・川路聖謨。情愛深く機知に富んだ対話力と飽くなき探究心によって積み上げられた知見とを以て交渉に臨むその態度は、ロシアのプチャーチン提督や秘書官のゴンチャロフから手放しの絶賛を受けました。交渉の中で、川路は、日本が不利な立場にならないよう毅然とした態度をとったと伝えられます。安政元年(1855)12月21日に調印された日魯通好条約(日露和親条約)では、日本とロシア両国の国境は、択捉(えとろふ)島とウルップ島の間とし、樺太(からふと)では国境を定めず従来通りとするということになりました。これにより、歯舞(はぼまい)群島・色丹(しこたん)島・国後(くなしり)島・択捉島の北方四島が、正式に日本の領土として認められたわけです。番組は、文化も価値観も異なる異国相手に条約締結を成し遂げた川路が、いかなる知恵を絞ったのか、その実際に迫りました。
出演者たちからは、川路が交渉術に長けていた理由のひとつに、飽くなき探究心があったのではないかと口々に語られました。忙しさにかまけることなく、常にスキルアップに励み、専門分野以外にも広く興味を持ち深く探求することで、獲得した広範な知識と情報をもとに自分を相対化し客観視しようとしたという指摘に、川路の学究肌の人となりを垣間見た気が致します。川路に限らず、当時の先人たちが、自己をメタ認知するという視点を既に身につけていたことに驚きを禁じ得ません。昔も今も、「学び」のもつ本質は同じなのだと言うことを改めて感じました。
川路の残した日記・手記は膨大な量があり、吉川弘文館『人物叢書』の川田貞夫著『川路聖謨』は、規定の文章量の枠を大幅に超過したため、特別な組版に変えたそうです。川路聖謨の人物像は、小一時間の尺では語り尽くせないものがあったとは思いますが、多くの示唆を得た番組内容だったのではないかと思います。
なお、川路聖謨の墓所は、東京上野池之端の日蓮宗大正寺(だいしょうじ)にあります。川路聖謨と高森家の関係については、当山のサイト記事「NHK大河ドラマ「青天を衝け」と川路聖謨」も併せてご参照ください。 (文責 高森大乗)
記
番組名:先人たちの底力 知恵泉
エピソード名:「幕末の“名奉行”川路聖謨 交渉術はどう培う?」
放送局:NHK Eテレ
放送日:令和6(2024)年11月26日
出演(敬称略):今野敏(小説家)・山口真由(法学博士・信州大学特任教授)・大石学(東京学芸大学名誉教授)