🆕信長暗殺の黒幕「羽柴秀吉」説~NHK大河ドラマ『豊臣兄弟!』にからめて~

 令和8年(2026)放送の第65作NHK大河ドラマ『豊臣兄弟!』は、天下人の弟で天下一の補佐役を果たした豊臣秀長を主人公(演者:仲野太賀)に、強い絆で天下統一という偉業を成し遂げた豊臣兄弟の成功譚をダイナミックに描きます。
 戦国時代を描く大河ドラマは、これまでも数多く制作されてきましたが、近年で言えば、『軍師官兵衛』『真田丸』『おんな城主 直虎』『麒麟がくる』『どうする家康』に登場した武将たちが再登場することは間違いありません。

落合芳幾『太平記拾遺』四「大和大納言秀長」(東京都立中央図書館蔵・部分)

 今回は、秀吉・秀長兄弟の生涯を描くドラマである以上、同郷の出身で、同じく織田信長の臣下として功名を競い合った柴田勝家の存在が大きくクローズアップされることと予想されます。
 勝家は、人望が篤く、信長配下の前田利家(『利家とまつ~加賀百万石物語』の主人公)から「親父殿」と呼ばれて慕われ、また明智光秀(『麒麟がくる』の主人公)も勝家に信頼を寄せていたことが知られています。明智光秀は若い頃、越前国(現在の福井県)を治めていた朝倉義景に仕え、越前東大味(ひがしおおみ)の地で数箇年を過ごし、のちにこの地を去り、織田信長に仕えます。天正元年(1573)8月、朝倉義景と織田信長が衝突した「一乗谷城(いちじょうだにじょう)の戦い」の際、朝倉家の本拠地である一乗谷からほど近かった東大味も戦禍に巻き込まれるのが必至の状況となり、この時、光秀は、柴田勝家に懇願し、東大味の民を余所の土地に避難させるという安堵状の発給を依頼しました。現在、明智神社そばの西蓮寺には、そのときに発せられた安堵状が保管され、東大味地区では、明智光秀とともに柴田勝家が敬愛の情をもって慕われています。
 同じ信長家臣でありながら、勝家は、秀吉とは犬猿の仲であったと言われ、信長亡き後は、その険悪な関係は悪化し、天正11年(1583年)3月の「賤ヶ岳(しずがたけ)の戦い」で、勝家は信長の妹お市とともに壮絶な最期を遂げます。

喜多川歌麿『柴田修理進勝家と小谷の方』(大英博物館蔵) *「小谷の方」とは信長の妹「お市」のこと

 ところで、明智光秀と言えば、「本能寺の変」を思い浮かべる方も多いことでしょう。この史実に対して、近年、本能寺の変の真犯人のひとりとして浮上しているのが、本作『豊臣兄弟!』の兄・豊臣秀吉です。
 秀吉は、数々の合戦で戦功を立てながらも、賤しい家柄のため織田家臣団の中でも下位に扱われ、傍若無人な信長のハラスメントに堪えながら忠臣振りを装っていたようです。信長には、柴田勝家・滝川一益といった実力のある譜代の家臣たちがおり、いくら「実力主義」を掲げる信長のもとでも、身分の低さ故に出世躍進が難しいと考えた秀吉は、虎視眈々と一発逆転を狙っていたはずです。
 天正5年(1577)にはじまる中国攻めで、秀吉は信長に命じられ毛利輝元の勢力圏である山陽道・山陰道に派兵しますが、6箇年に及ぶ長期戦も秀吉の奸計だったかも知れません。この間、信長からたびたび叱責を受けていたようです。
 この時、秀吉が、明智光秀を唆(そそのか)し、結託して西日本を手中に収めようと嗾(けしか)けて、信長暗殺を決行させたと考えるのが、秀吉黒幕説です。
 天正10年(1582)6月2日に「本能寺の変」が起こり信長死去の報せが届くと、秀吉はタイミングを計ったかのように、敵対する毛利とすぐさま和睦を結び、「中国大返し」で都に帰還します。ありえない迅速さで対応した秀吉の行動も、信長暗殺黒幕説の根拠となっています。事実、秀吉は京方面にも多くの間諜を配していたようで、かなり早くに本能寺の凶変を知ったようです。明智光秀を討った同年6月13日のいわゆる天王山「山崎の戦い」は、実は、謀叛の罪を光秀に着せて、共謀の口封じをするためだったとも解釈できます。
 「本能寺の変」黒幕説(歴史家・昭和女子大学講師 山岸良二氏提唱)は、東洋経済オンラインにも詳しく紹介されていますので、ご参照ください。
(文責:高森大乗)

岩井弘画屏風絵図『秀吉の道』_中国大返し(左)と明智藪(右)

 なお、当サイトに掲載した明智光秀関連の記事を下記にお知らせいたします。併せてご高覧ください。
   記
TBSテレビ「7時にあいましょう」(2016年11月21日放送)取材協力
要傳寺檀徒の系譜(その2)~NHK大河ドラマ「麒麟がくる」に寄せて~
TBSテレビ「日立世界ふしぎ発見!」(2020年12月12日放送)編集協力
要傳寺檀徒の系譜(その3)~要傳寺過去帳にみる寺檀の歴史~
徳川家康ゆかりの日蓮門下寺院~大河ドラマ「どうする家康」豆知識~

 明智光秀の子孫と伝えられる当山檀徒の土岐家とタレントのクリス・ペプラー氏との関係は、明智憲三郎著『明智家の末裔たち―本能寺からはじまった闘いの記憶』(河出書房新社、2019年)にも言及されています。

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