🆕蔦屋重三郎と東洲斎写楽~NHK大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」先取り~

蔦屋重三郎の肖像画(黄表紙『箱入娘面屋人魚』板元蔦唐丸口上、1791年)

 NHK放送開始100周年にあたる令和7(2025)年の第64作NHK大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」は、喜多川歌麿・山東京伝・葛飾北斎・曲亭(滝沢)馬琴・十返舎一九などの若手絵師を見出し、日本文化史上最大の謎のひとつ“東洲斎写楽”を世に送り出した、江戸時代中期の出版王・蔦屋重三郎(1750~97、主演:横浜流星)を主人公に描かれます。
 江戸時代中期を取り上げ、江戸の庶民を主人公とする大河ドラマは、恐らく本作が初めてになるでしょう。しかも、官許の遊郭吉原(新吉原)を舞台に、色里に生きた花魁たちの知られざる生活を刻銘に描写するようなドラマは、100年に及ぶNHKの放送史上、類を見ないのではないでしょうか。作品では、遊郭の艶やかさや華やかさとは裏腹の「吉原の闇」ともいえる格差や搾取の構造にもスポットを当て、市井の人々の生き様や喜怒哀楽を時代劇の中に落とし込んでいきます。
 やがて吉原から城下町日本橋に出店した蔦重は、異学禁止・風俗粛正・出版統制にまで及んだ「寛政の改革」に抗って江戸文化の中心に躍進しますが、その原動力となった志とはいったい何だったのか…。様々な問題意識からドラマを観ることができるのも、本作の醍醐味と言えます。

 なお、作品の謎解き部分となる「東洲斎写楽」には、これまでも以下のような諸説が提唱されていますが、果たして、ドラマではどのようなかたちで描かれるのかも、見どころのひとつです。

(1)有名絵師説
 葛飾北斎、喜多川歌麿、歌川豊国、山東京伝、鳥居清政、円山応挙、谷文晁、酒井抱一などの絵師の誰かとする説。
(2)能役者・斎藤十郎兵衛説
 斎藤十郎兵衛説は古くは、斎藤月岑編『増補浮世絵類考』(1844年)などに唱えられている。近年では、「さい・とう・じゅう」を並びかえると、「とうじゅうさい(東洲斎)」となることが指摘される。
(3)版元・蔦屋重三郎説
 蔦屋重三郎を写楽本人とする説。
(4)複数合作説
 蔦屋重三郎がプロデュース役となり、「写楽」の名のもとに、企画を立てる者、アイデアを出す者、下絵を描く者、配色を決める者などがチームを組んで短期間に大量の版画を世に出したとする説。写楽の版画は、全4期に分類され、140点以上の作品がわずか10ヶ月の間に出版されており、なおかつ1期と4期では同じ作者とは思えないほど作風も技量も違うことが指摘されている。「写楽」は、江戸一の版元・蔦屋が打ち上げる花火であったから、北斎・歌麿・豊国といった名だたる絵師や、武士でありながら他聞を憚って能役者となった斉藤十郎兵衛らが参画していた可能性も否定できない。合作説を唱える文献としては、 橋本直樹著『六人いた! 写楽~歌麿と蔦屋がプロデュースした浮世絵軍団』 (宝島社新書、2014年)などがある。

蔦屋家墓碑・重三郎母子顕彰碑(浅草正法寺住職 佐野詮修氏提供)

 ちなみに、江戸吉原に生まれた蔦屋重三郎(喜多川柯理)の菩提寺は、吉原からほど近い現在の台東区東浅草の日蓮宗正法寺で、法号は「幽玄院義山日盛信士」。墓所は震災・戦災で失われ、同寺には現在、蔦屋家の墓碑と重三郎母子顕彰碑が建っております。
 重三郎は、吉原や浅草を中心に活躍したところから、当山の所在する台東区がドラマの中心舞台となります。今後、台東区でも様々な事業が展開されると思いますので、ご期待下さい(区開催の催事等については、 コチラで最新情報をご確認いただけます)。

べらぼう活用推進協議会 蔦屋重三郎ゆかりの地台東区 マスコットキャラクター「つたいやん」

 ご参考までに、江戸時代や江戸学について知りたい場合の手引きとなる文献として、竹内誠監修/大石学・小澤弘・山本博文編『ビジュアル・ワイド 江戸時代館』(小学館、2002年)、小木新造・陣内秀信・竹内誠・芳賀徹他編『江戸東京学事典』(三省堂、2003年)などがありますので、蛇足ながらご紹介します。
 このほか、近年、蔦屋重三郎を扱った書籍の中で、比較的手にとって読みやすいものとしてオススメなのが、『歴史人』12月号増刊「蔦屋重三郎とは何者なのか?」(ABCアーク、2023年)です。蔦重研究第一人者の鈴木俊幸氏(中央大学教授)が語る人物像から、蔦屋重三郎の47年間の生涯、田沼意次らが幕政を主導した時代背景などを考察し、その実像に迫ると同時に、蔦重を取り巻く人物相関図、江戸時代のメディア事情が分かる用語集、蔦重の活動拠点となった吉原や江戸下町の町屋・長屋など当時の人々の暮らし全般についても、豊富な図版・資料等を駆使して紹介しています。
 また、近刊書のうち、蔦重ゆかりの台東区の魅力を前面に押し出して発信している雑誌として、『特集 台東区で旅する蔦屋重三郎と江戸文化』(『東京人』488号、2025年1月増刊)があります。大河ドラマ脚本家の森下佳子氏や主人公の横浜流星氏のインタビュー記事を皮切りに、服部征夫台東区長・鈴木俊幸氏(前出)・直木賞作家の朝井まかて氏の座談会記事、台東区大河ドラマ「べらぼう」活用推進協議会会長はじめ伝統芸能・工芸・食文化を今に伝える粋な下町人(したまちびと)からのメッセージ、要伝寺の地元・台東区根岸の落語家林家つる子師匠と文京区生まれの三遊亭遊七師匠による「落語で散歩」、東京学芸大学の大石学(前出)名誉教授や東叡山寛永寺浦井正明貫首による上野浅草の江戸文化紹介などなど、120ページほどの冊子乍ら、ドラマの中心舞台となる下町台東の魅力を余すところなく紹介する盛り沢山な内容となっています。
 これら書物を座右に置いて、ドラマを楽しまれてはいかがでしょう。お薦めします。(文責 高森大乗)

※「べらぼう」の題字を揮毫した石川九楊(いしかわ きゅうよう)氏は、要伝寺のある台東区根岸在住の書家でもあります。詳細は、美術展ナビをご参照ください。
※ ドラマには、台東区出身の俳優で台東区の観光大使も務める安達祐実氏も出演します。台東区出身の著名人・芸能人のデータベースはコチラから、たいとう観光大使の一覧はコチラから、それぞれご参照ください。
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