【推薦図書】松本徹三著『AIが神になる日~シンギュラリティーが人類を救う』(SB Creative、2017年)

 人類が、近い将来に直面するといわれているTechnological Singularity(テクノロジカル・シンギュラリティ、技術的特異点)。その主役となるのが、Artificial Intelligence、すなわち人工知能AIである。
 シンギュラリティに到達した究極のAIは人間の頭脳のほぼすべてを複製した上で、その能力を想像を絶する段階にまで進化させて、この世界や人類の在り方を根本的に変えると言われている。その進化は加速度的に無限に続くため、かつての産業革命など比べようもないほどの大変革を社会にもたらし、政治・経済・司法・行政・教育・医療など、さらには文化・芸術の分野さえもAIが人類に取って代わる時代が到来する。あらゆる領域において「民意の最大公約数」を把握し、「最大多数の最大幸福」の世界を実現できるAIには、無限の可能性が秘められているのである。
 AIの可能性や、それがもたらす未来像を懐疑的に見る人々もいるが、AIの実力をあなどってはいけない。たとえば、氾濫する情報の中には「あやまち」「いつわり」も多く含まれるが、種々のファクターを縦横につなぎあわせてその整合性を検証すれば、かなりの練度で真贋を見極めることもできるという。
 やがてAIは、道徳や価値観、哲学や精神文化の領域にまで進出し、万人が納得し安寧をえられる宗教(それも、常に進化し深化しつづける宗教)さえをも創造するという。本書中盤では宗教・哲学とAIの問題にも多くのページを割くなど、広範な分野・領域を深く理解した著者が、多角的な視座からシンギュラリティが人類に及ぼす影響を縦横無尽かつ明瞭に論じている。
 本書は、同時期に出版された小林雅一著『AIが人間を殺す日―車・医療・兵器に組み込まれる人工知能』(集英社、2017年)とは対照的なタイトルで、単にAIに警鐘を鳴らすためのものではなく、これまでにない視点からAIを捉え、諸論点から問題を提起。
 著者曰く、AIは、人類にとって「下僕」にもなり、「神」にもなり、「悪魔」にもなり得る。人間が、自分たちの存在をどのように考え、どのようにAIと向き合うかかが、それを決めるのである、という。
 人類の未来が明るいものになるか、暗いものになるかは、人間次第ということを改めて考えさせられる書。

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