法華経の教え

 法華経は、釈尊が最晩年に説かれたお経のひとつです。説かれた場所は、インドにかつて存在したマガダ(摩竭提)国の首都ラージャグリハ(王舎城)近郊の山で、グリッダクータ(耆舎崛山、霊鷲山)と呼ばれます。霊鷲山は、釈尊が最も好んだ説法の霊場で多くの教えがこの山で説かれました。その中でも、法華経は、釈尊が72歳から79歳(釈尊がこの世を去る前年)までの8年間に説かれた、まさに遺言の説教にあたります。
 原語は、Saddharma-pundarika-sutra(正しい法の、白蓮華のようにすばらしい教え)といい、鳩摩羅什(くまらじゅう)という僧侶によって漢文に訳出され、『妙法蓮華経』と名付けられました。全8巻28品(28章)からなり、内容は、以下の3つの要点にまとめられます。

① 開会の思想
 釈尊による法華経の説法の大きな目的は、法華経以前の教説を方便の教えと見なしてひとたび開き、真実の教えに会して、釈尊の本懐を披瀝することにありました。このように、従来の説法をひとたび開いて、より高い次元の真実の教えに会していくことを、「開会」と呼びます。
法華経の開会では方便品を中心に「仏なるもの」の空間的普遍性、如来寿量品を中心に「仏なるもの」の時間的不変性(永遠性)が説かれます。
 「仏なるもの」の空間的普遍性からは、一切の衆生がおのおの「仏」を内在することになるので、衆生はみな釈迦牟尼仏と一体不二となり、これにより善悪・賢愚・貧富などの二元的価値観を越えたあらゆる衆生の成仏が実現します。
 「仏なるもの」の時間的不変性からは、まもなく滅する有限の釈迦牟尼仏ではなく、久遠かつ永遠に存在する釈迦牟尼仏が明かされることで、釈尊在世中の衆生の救済にとどまらず、釈尊入滅後も永久に衆生と仏とが結びついて、未来永劫の救済が実現します。

② 付嘱の儀式
 法華経の中盤の説法は、霊鷲山の空中(虚空)で行われたところから、その会座を「虚空会」と言います。そこでは、如来神力品を中心に釈尊滅後における法華経の弘教を委嘱する「付嘱の儀式」が執り行われます。
 法華経は釈尊の本懐が示された遺言の教えでありましたから、自分の亡き後にこの教えが永遠に廃れないよう、弟子に付託する必要があったわけです。
 前述の如来寿量品や、この如来神力品に代表される虚空会での説法の目的は、釈尊滅後の衆生の救済にあったことがわかります。

③ 法華菩薩道の実践
 法華経の重要な教えの3点目は、「菩薩道の実践」です。
 法華経の後半は、薬王菩薩・妙音菩薩などもろもろの菩薩たちによる菩薩道(法華菩薩道・大乗菩薩道)の実践が提示されます。これらは、「法華経に生きる」こととは何かを説いた、ブッダの教えに根ざす「こころざし」「ふるまい」の実践例となります。

 日蓮宗で信奉する法華経は、今日まで生き続けている経典のひとつです。それは、決して我々の日常とかけ離れた教えではないからこそ、現代まで絶えることなく受け継がれてきたといえるでしょう。

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