丹田呼吸法とは
呼吸は自律神経系でコントロールされています。自律神経系、内分泌ホルモン系、免疫系のなかで、自分でコントロールできるのは、呼吸だけです。
丹田呼吸法は、大きな呼吸を丹田ですることにより、自律神経系が過緊張になっている場合はリラックスさせ、疲れて機能低下している場合は適度の緊張を取り戻させて調和を回復します。
さらに、はく息を一心に数えることにより、頭の中を数字だけにしてカラッポに近づけ、内分泌ホルモン系や免疫系にストレスの爆弾が落ちないようにして心身相関を高める素晴らしい方法です。
普段の呼吸は、おなかから胸の間でしています。ストレスが掛かれば、肩でしています。
だから、肩が凝り、頭痛がするなど自律神経失調症になります。
この呼吸を丹田に切り替えましょう。いつでも丹田で呼吸をするようにしましょう。身体が暖かくなり充実感と生命力を感じられます。「私は生きている」という実感が得られます。これが目標です。
丹田の確認
まず、丹田呼吸法で大切なのは、丹田を理解することです。丹田がわかれば、もう丹田呼吸法の70%は理解したといっても良いぐらいです。
「丹田呼吸法とは、腹式呼吸ですか?」とよく聞かれます。腹式というと、わかりにくいです。おなかは広いですから、みぞおちなのか、おへその周りなのか、下腹なのか。さらに、息を吸うときに、おなかが膨れるのか、へっこむのかわかりません。
それに比べて、丹田呼吸法は実に簡単です。丹田とは腹筋のことです。丹田が分からなくなれば、両手を腹筋の辺りに当てて、仰向けに寝て、少し上半身を起こす腹筋運動をして下さい。腹筋が硬くなるのが分かります。その一番堅くなった所が丹田です。
あるいは、椅子に座ったままでもできます。両足を前に投げ出し、上体を少し後ろに反らせる姿勢になり、両手は腹筋のあたりに置いてください。その姿勢で、少し上体をおこそうとしてください。両手に力を入れて腹筋を堅くしなければ起きあがれません。その堅くなった腹筋が丹田です。
この丹田から息を吐き出すような気持ちで、腹筋を固くしていきます。いち、にい、さん-で吐いていきます。息を吐いていくとともに腹筋が少しずつ堅くなりますので、下腹は少しへっこみます。ただ、へっこめるというのではなく、腹筋が少し堅くなるので結果として軽くへっこむということです。
吸うときも丹田から吸うように大きく吸い込みます。吸うときは無意識で、大きく肺いっぱい吸い込んでください。このときは下腹は少し膨れます。
吐くときには意識を丹田と吐く息に集中します。丹田を意識しながら数字を数えます。決して力まずに、自然に出せるようにしてください。
第1段階
丹田呼吸法は三段階で練習します。
椅子に座ったままで、両手を下腹に当てて下さい。両手の中指の先が下腹の上でくっつくようにして下さい。
丹田に両手の指先をあてながら三拍子で、息を吐きます。いち、にい、さん~で全部吐きます。
いちで軽く両手全体で丹田を押さえ、にいで指先だけで少し丹田を押え、さん~でさらに指先を丹田を押し込みながら、息を全部吐きます。このとき、腹筋が少しずつ堅くなっていきます。
息は丹田から吐き出すような気持で吐いて下さい。吐く息に意識を集中して一心に数を数えて下さい。頭の中を数字だけにして下さい。
息を吸うときは、同じ様に丹田から吸うような気持でしますが、このときは楽にいっぱい吸って下さい。吸うときは意識を集中しなくても結構です。自由にすってください。
ちょうどアコーディオンの中心が丹田で、吐くときはその中心に向かって徐々にアコーディオンを閉めていく。吸うときは大きく一杯まで開く。その繰り返しです。
第2段階
両手を腰の当たりまで上げて下さい。
いち、で両手をゆっくり下腹にむかってずらします。
にい、で下腹の上で両手の中指の先が出会います。これは、第一段階のときの両手の位置と同じです。
さん~で第一段階と同じ様に、指先を丹田に押し込みながら残りの息を全部吐きます。丹田はいち、にい、さん~で少しずつ固くなります。
吸うときは、両手を腰まで上げながら、丹田から肺まで一杯になるような感じで吸います。両手を腰まで上げるので、大きく吸いやすいはずです。吐くときも大きく長く吐けるはずです。
ただ、長く吐くのが目的ではありません。丹田に徐々に力をこめながら吐くことが目的です。丹田に力がたまるという感じです。丹田に少し力がこもり、丹田で呼吸しているという実感をつかむことが大切です。
第3段階
今度は、理解しやすいように、立位でやってみます。立位はあくまでも理解しやすいためにするので、普段はしないでください。
丹田呼吸法は簡単なようですが、非常に強力な効果を持っています。立位ですると血圧が下がりすぎふらふらとすることがありますので、普段は座ったままでしてください。
まず、上体を少し後ろにそらして下さい。いちで、そこから少し上体を起こし、にいで、背骨をまっすぐにし、さん~で、沈み込みながら息を吐き切ります。
この沈み込むということが大切です。ちょうど両手に重い荷物をもったような姿勢です。背骨を決して曲げないでください。背骨を曲げますと、丹田に力がこもりません。
背骨をまっすぐにしたままで沈み込むと丹田に力がこもってきます。これがコツです。手の動きは第二段階と同じです。
では、両方あわせて、いちで、上体を起こしながら、両手は下へずらし、にいで、背骨をまっすぐにし、両手の中指の先は丹田の上でくっつける。
さん~で、上体を沈めて丹田に力をこめていく。両手の指先は丹田に押し込みながら、最後まで息を吐き出します。
次に、第3段階を座ってやってみましょう。
息を吸いつつ上体を少し後ろに反らせて、手は腰に置きます。
いちで少し戻して、にいで垂直まで戻してください。さん~が座ったままだと沈むことができませんので難しいのですが、立位で沈むのだということを理解しておくと、座ったままでも丹田に力を込めることができます。
以上が、丹田呼吸法のやり方です。
丹田呼吸法の5つのポイント
さらに、具体的に注意点や解説を続けましょう。次の5つのポイントが大切です。
1.時と場合により使い分ける
第1、2、3段階のどれを使かえばいいのかと迷う人がいますが、どの段階を使われても結構です。そのときの状況に合わせてください。
周りに多くの人がいる場合は、第1段階、それも手を動かさず、自然に重ねたままがいいでしょう。上手になれば、手は丹田に当たっているだけで、特に動かさなくても丹田呼吸法ができるようになります。
自在に使い分けて、24時間丹田人間になるようなつもりでしてください。呼吸の革命をするというような気持ちです。実際上達してくると、無意識でも丹田呼吸法をしています。
習慣のものですから、繰り返し繰り返し練習していると自然に身に付きます。
2.今の姿勢のままでする
丹田呼吸法をする姿勢ですが、しようと思ったときの姿勢でしてください。ソファーに座っているなら、その姿勢で。テーブルの上に足を上げているのなら、その姿勢で。床に寝ているのなら、その姿勢でしてください。横向きになっていようと、上向きになっていようと、うつぶせになっていようと、そのまましてください。
決してきちんと座り直してやろうとは思わないでください。姿勢が悪いといっても疲れているから悪いのです。疲れているのにきちんと座り直してしなければならないと思うとできなくなります。
どんなに行儀が悪い姿勢でも、今の姿勢のままで丹田呼吸法をしてください。丹田呼吸法が効いてきますと、元気が戻ってきます。自然と姿勢が良くなります。
元気があるときの座り方も、椅子の上でも、正座でも、あぐらでも、座禅の姿勢でも、何でもかまいません。やりやすい座り方、これが一番です。
3.ちょっと10息の丹田呼吸法
日常生活で丹田呼吸法を行うときに、「ちょつと10息の丹田呼吸法」というのは大変便利です。練習の時は、いちー、にいー、さんーと三拍子で数えていましたが、10息のときは、いちー、いちー、いちー。いにー、いにー、にいー。さんー、さんー、さんーと数えて10までいきます。10回分の呼吸を一区切りにするものです。
「なんだ、同じことではないか」と思われますが、実際にしてみると、これが非常に違うのです。いちー、にいー、さんーの繰り返しでは、緊張が保てません。しかし、10回分を一区切りとしますと、はっきりとした効果が得られます。
イライラとしたとき、身体がだるいとき、人を待っているとき、椅子に座っているとき、スピーチをする前、緊張したとき、何でも良いのですが、「ちょと10息」を機会がある限り、日常生活に入れていきます。著しく効果が上がります。
4.気持ちに合わせる丹田呼吸法
悲しさや苦しさ、不安や不満、恨みや絶望感などの気持ちにとらわれたら、その感情を否定しようとしたり、抑えようとしないでください。
その時は、その「気持ちにあわせる丹田呼吸法」をしてください。ちょうど音楽で伴奏するように、協演するように、強いときは強く、ゆるやかなときはゆるやかに、深いときは深く、早いときは早く、あわせながら丹田呼吸法してください。
このときは数を数えるのではなく、つらい、つらい、つらいー。悲しい、悲しい、悲しいーと3拍子で気持ちに合わせて言ってください。そして、疲れ切るまでくり返してください。疲れ切るまでくり返すと言うことも大事な点です。ふと気づくと悲しさやつらさから抜け出ている自分に気づきます。
比較的元気なときで、もっと元気になりたいときは「ちょと10息」が便利です。実際「ちょと10息」をやってみると充実感が高まります。
しかし、疲れているときや、元気がないときの場合ですと「感情にあわせる」という方法が大事です。疲れているから感情に振り回されているのです。疲れ切っているときに「ちょと10息」をするとかえって苦しくなるでしょう。
この場合は、「感情にあわせる丹田呼吸法」をしてください。言葉で言うとむずかしそうですが、実際にしてみてください。感情のままに丹田呼吸法をするということの意味が分かっていただけるでしょう。この二つの方法が身に付くと大変効果的です。
5.身体が暖かくなったら効いている証拠
丹田呼吸法は、テニスやゴルフと同じです。練習と共にだんだん上達してきます。ただ、初心者の時は、うまく丹田呼吸法ができているのかどうか分からないと迷っている方がおられますが、心配入りません。簡単に判断できます。
身体が暖かくなったら効いています。暖かくなったらうまくいっている、暖かくならなかったら丹田呼吸法になっていないと判断してください。
丹田呼吸法の具体例
呼吸の長さ、強さ、早さ
呼吸の長さは、あまり長くしないでください。上達すれば自然と長くなりますので、最初はコツを覚えるのが先です。長い息を吐こうとするとリズムが崩れます。また、肺に無理がかかります。軽く三拍子で吐いてください。
強さも、早さも同じです。ジョギングしているときの呼吸が速く、強く、短いもの。ベッドで寝ているときの呼吸が、遅く、弱く、長いものとすると、普通のときにする丹田呼吸法は、この中間ぐらいと考えてください。
上達してくると、気持ちを切り替えたいときは、短く、強く、早く呼吸をします。例えば、腹が立ったときやイライラしているときなど。
吸う時間もいれて1回が3~5秒程度です。落ち着いた気持ちになりたいときは、長く、弱く、ゆっくりとした呼吸です。1回が15秒以上になると、静かで落ち着いた効果が出ます。
片足を上げる丹田呼吸法
椅子に座って丹田呼吸法をする場合、片方の足を、もう一方の足の腿に上げるやり方もあります。ちょうど、弥勒菩薩のような座り方です。
坐禅の姿勢を、椅子の上でする形になります。慣れてくると、この姿勢の方が安定して集中しやすいかもしれません。
座り方は、椅子の上でも、正座でも、あぐらでも、座禅の形でも結構です。やりやすい姿勢でやってください。
すぐに雑念が湧いてきます。雑念ばかりです。
私たちの頭は、巨大な記憶の倉庫のようなものです。生れてから今までの体験の全てのことが記憶されているといわれています。忘れることはあっても、記憶自体がなくなることはなさそうです。
老人になったら若い頃のことが鮮やかに思い出されます。ひょんなことで、何十年も気にもしなかったことが思い出される。あるいは夢を見ているときは普段忘れている遠い昔の不安が出てくる。
日常生活では、この記憶倉庫のなかから、今必要なものだけを取り出してきます。これから何をするか、明日は何をしなければならないか、そのようにテーマが決まりますので、それに関するものしか頭のなかにでてきません。
しかし、丹田呼吸法をしている間は、これからすることも、明日することもありません。行動することが出来ません。行動することを止めるために座っています。
こうなると、記憶倉庫からどれを取りだし、どれはしまっておく、という選択がありません。あらゆる思いがでてきます。雑念の山です
ここで無になることは出来ることではありません。無になろうと思うこと自体が思いですから、ただ一生懸命に数を数えていく。雑念がでてすぐ脱線しますが、脱線してはまた最初から数を数えていくということだけでいいのです。
ただひたすら、数を数えてください。雑念があろうがなかろうが、無になるとかならないとかはどうでもいいことにして、数を数えるということに徹してください。
半年、1年と続けていれば、その効果の大きいことに必ず驚かれることでしょう。