千葉県大網白里市の九十九里浜に程近い日蓮宗智弘院には、うつ病や人間関係での悩みを抱えた子どもから大人まで多くの人が訪れる。百井誠栄住職は訪問者の相談に応え、時には生活を共にして彼らの生き方を後押ししている。
同院ではうつ病を抱えて生活改善を求める大人や、SNS依存症と診断され親に連れてこられた子どもらが短期、長期にかかわらず、絶えず生活している。午前5時30分に起床し、同6時から百井住職と一緒に勤行、掃除に励む。朝食のおかゆを食べた後は写経や坐禅に取り組む。
同院は1967年に東京都杉並区で創建され、86年に現在地に移転した。開山の日起上人が移転の3年後に亡くなり、約30年間、寺としての対外的な活動を休止していた。
百井住職は2013年に住職に就任後、ブログやフェイスブックを通じて仏教の教えや寺の行事、自身の考えを発信するようになった。また寺ではヨガ、坐禅会、コンサートを開くほか、海に近くサーファーが集まることから海上祈願法要などいろいろな催しを始めた。インターネットで寺にも徐々に注目が集まりだし、悩み相談を受けるようにもなった。
いじめ、不登校、受験、就職、恋愛、育児、介護、健康、借金など内容は様々。僧侶の立場からアドバイスをする。「力になれることがうれしい。一度きりの相談で終わってしまい、力になれなかったと思うこともある。助けになるにはまず自分自身がしっかり仏道の修行に努めなければならない」と百井住職。
心の病の相談を受ける中で、幼少の頃の家庭環境に問題がある子が多く、そういった子どもたちのための取り組みが必要だと気付いた。
小学生を対象とした寺子屋「あさテラサタデースクール」を始めた。毎月第1・第3土曜の午前8時から1時間、坐禅・読経体験、雑巾がけ、地域の歴史についての勉強などを行う。インターネットや口コミで広がり、多い時には10人以上が参加するようになった。
百井住職は「お寺としてできることに取り組んでいたら、自然な流れで寺子屋をするようになっていた」と振り返る。
「執着することで視野が狭くなる。その視野を広げるのが信仰の力。私がどうこうするのではなく、お寺に来た人と仏様の縁を結ぶことが役割だ」と言う。
(甲田貴之)