日蓮聖人の御遺文の中には、「十字(むしもち)」という言葉がたびたび登場します。
たとえば『重須殿女房御返事』というお礼状の冒頭には、
「十字(むしもち)一百枚・かしひとこ給了」
とあり、「蒸し餅百枚、果物一籠(かご)を頂戴しました」という意味になります。このお手紙は、冒頭の言葉から、別名『十字御書(むしもち御書)』とも呼ばれています。
また、『上野尼御前御返事』の文頭にも、
「聖人(すみざけ)ひとつつ(筒)、ひさげ(提子)十か。十字(むしもち)百。あめひとをけ(一桶)、二升か。柑子(こうじ)ひとこ(一籠)、串柿(くしがき)十連。ならびにおくり候ひ了んぬ」とあり、
「清酒一筒、提子十箇、蒸し餅百、飴一桶(二升ほど)、蜜柑一籠、串柿十連など、いろいろとお送りいただきました」という内容です。
ところで、この「十字(むしもち)」とは、一体どのようなものなのでしょうか。気になって、インターネットで調べてみました。
和菓子の老舗「虎屋」のホームページには、次のような説明がありました。
「頼朝は建久四年(1193)五月、富士山麓で大規模な巻狩(まきがり)を行いました。この時、長男の頼家が鹿を射ったことを祝い、参加した将士に『十字(じゅうじ)』を配っています。
十字とは蒸餅(じょうへい)のことで、饅頭の異名だと、江戸時代の図説百科事典『和漢三才図会』にあります。名称の由来は、食べやすくするために、蒸した餅の上を十文字に切り裂いたからだといいます。鎌倉時代には中国から饅頭や羊羹がもたらされているため、頼朝が饅頭を配っても不思議ではありません。
(中略)
鎌倉時代の宗教家・日蓮は、十字を『満月の如し』と形容しており、平たく丸い形であったことがうかがえます。」
また、コトバンクには「十字餅(じゅうじもち)」として、次のような説明があります。
「『十』の字を、災いを除き幸いを招くまじないとして、祝儀の贈り物の蒸し餅の上に紅色で書いたところから、蒸し餅・まんじゅうの異称となった。」
さらに、「十字」と書いて「むしもち」と読むのは、「六」と「四」を足して「十」になるところから来ている、という説もあるようです。
時代が古く、現代まで正確に伝わっていないため、「十字(むしもち)」には、まだまだ謎が多いようです。ただ、コトバンクの説明にあるように、「災いを除き、幸いを招くまじない」とされていたことから、厄除けの縁起物であったことは想像できます。
実際、先に紹介した日蓮聖人のお礼状の日付も、「正月五日」「正月十三日」となっており、新年のお祝いの意味合いもあったのではないかと思われます。
そこで今回は、こうした意味を現代的に受けとめ、「除災招福」のお供えとして「十字(むしもち)」を和菓子屋さんにお願いして作っていただきました。焼き印で十字をつけた節分の厄除けにふさわしいお菓子です。

