RSKラジオ 「仏教アワー」 25年11月9日

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今年もRSKラジオの「仏教アワー」に出演しました。
ラジオですから顔は映りませんが、多くの方に聴いていただいていると思うと、声だけの出演でも何だか気恥ずかしいですね。
毎年一回の出演ですが、もう十年以上になります。10分間の短い法話とは言え、なかなか上手くいかないものです(^^;)
以下が今回のお話です。
 おはようございます。本日は、岡山市北区船頭町 日蓮宗妙勝寺住職 藤田玄祐がお話し申し上げます。
 だんだん秋も深まってまいりました。今年の夏はあまりに暑かったので、このまま秋は来ないのではないかと心配しましたが、十一月ともなれば例年通り紅葉と落ち葉の季節を迎えました。年によってその時期に多少の違いはあれど、夏から秋、そして冬へと季節は確実に巡っていきます。変わっていくものもあれば、変わらぬものもあります。季節は確かに巡っていきますが、その順序が変わることはありません。春が過ぎれば夏が来ます。当たり前のことですが、春夏秋冬の順序は変わることはありません。
 先日、『岡山市今昔写真集』という最近出版された写真集を見る機会がありました。この本は戦前・戦後を中心とした岡山市の身近な風景写真を集めたものです。昔の風景と同じ場所で写した現在の風景を並べてあったりして、比較して見るとなかなか興味深いものでした。眺めているといろいろと懐かしい風景に出会うことができました。ボンネットバスや路面電車の古い車両、千日前商店街の映画館などは記憶にありますが、建設中の岡山城や桜橋ができる前に活躍していた旭川の渡し船などは見たことのない光景でした。
 ページをめくっているとあっという間に時間が過ぎてしまうのですが、昔の写真と今の写真を眺めて思うのは、やはり変わるものもあれば、変わらぬものもあるな、ということです。町中の風景、車両や建物や人々の服装などは確かに変わっていますが、そこに写っている人々の笑顔や楽しそうな親子連れの様子などは今と変わらぬものです。時代が変わっても人間そのものはあまり変わることがないのでしょうが、人々の考え方や感じ方はその時代・時代を反映しているようです。
  少し前になりますが、NHKの朝のテレビ小説「ひらり」の脚本や横綱審議委員会の委員を務められた脚本家の内館牧子さんが、ある新聞に次のようなコラムを書いていました。タイトルは「叩き込まれた言葉」です。少し引用してみます。
  私の女友達に破格の努力家がいる。やると決めたら徹底的に努力し、そしてモノにする。彼女はある日、言った。
「物心ついた頃から、親に『努力の上に花が咲く』って叩き込まれて育ったの」
 彼女は60代だが、今もその教えが生き続けているわけだ。ふと興味を覚え、周囲の各年代の人たちに「親から叩き込まれた言葉」を聞いてみた。これが面白いことに実にその時代を表している。
 80代は「父母に孝に兄弟に友に」と教育勅語だ。「旧来の陋習を破り、天地の公道に基づくべし」と、五箇条の御誓文をあげた人もいる。子供に理解できただろうか。
 70代に下ると「男は泣くな」が最多。続いて「辛抱は必ず報われる」「我慢」「忍耐」「働かざる者食うべからず」と、男も女も心身共にきつい世に生きていたことがうかがえる。
 60代になるとまたガラリと変わり、「臥薪嘗胆」「自分に勝て」「努力は岩をも徹す」など努力系が増える。団塊の世代など人数が多いせいか、親の目が届かない分を太陽にお願いし、「おてんと様が見てござる」と叩き込まれた人が多いのには笑った。
 50代、40代は日本が豊かになった証拠だろう、マナー系が目立つ。「箸は正しく持て」「肘をついて食うな」「挨拶せよ」「約束と時間は守れ」の類だ。
 30代と20代には、自分の子供にどんな言葉を言っているかを聞くと、「ナンバーワンよりオンリーワン」「みんな平等、みんな仲良し」「空気を読め」。そして一番多かったのが「自然体で生きよ」だった。
 多くの若い父親、母親は「男の子だって泣きたいときは泣いていい」と。70代の人たちの人生を考えると、これもなんだか腹が立つ。
 さて、ラジオをお聞きの皆さんは、どんな言葉を「叩き込まれた」でしょうか。こどもの時に繰り返し聞かされた言葉は記憶に刻まれ、その人の血となり肉となり、生き方のバックボーンになるようです。
 こどもの時の教育・しつけの大切さは皆さん感じていることだと思いますが、自分のこどもならともかく、他のお子さんについてはどうしたものやらと感じている方が多いことでしょう。私もその一人でしたが、今年は少しでもできることをしようと、私どものお寺で初めての「夏休みこども寺子屋」を開きました。
 「こども寺子屋」といっても朝9時から午後3時過ぎまでの日帰り研修です。お檀家さんの子どもを中心に14名の小学生が集まり、初めてのお寺体験をしました。午前中は本堂でお題目写経や手作りキットを使ってのお数珠作り。一人一人自分用のお数珠を作りました。もちろんお経の練習や太鼓の打ち方のお稽古もしました。午後はペットボトルと氷を使った自家製アイスクリーム作りに挑戦。楽しい一時を過ごしました。短い研修の中で思い出と共に何か得られるものがあればと願った「こども寺子屋」でした。
  先日、ある檀家さんのお宅でご法事がありましたが、そのお宅のお孫さんはこの「夏休みこども寺子屋」に参加していました。顔見知りになっていましたから、ご法事の前に挨拶をすると、元気に挨拶を返してくれました。「寺子屋」で作った自分用のお数珠をちゃんと左手に持っています。法要が始まると大人に混じって大きな声でお経を読んでくれます。「寺子屋」で練習していない長いお経もお経本のふりがなを追いながら、一生懸命ついてきてくれます。お焼香の仕方も練習しましたから、スムーズにお焼香もできました。小さいことかもしれませんが、「寺子屋」の成果が現れたなあと嬉しくなりました。
 まだ小学生ですから、ご法事の意味やご先祖様のことなどはよくわかっていないと思いますが、自分につながる目には見えないものに対して敬虔な思いや感謝の気持ちを持つことができたのではないかと思います。少なくとも素直な気持ちで法要を勤めることができたことは本当に有り難いことです。信仰はこうした素直な気持ちが出発点です。
 世の中は確かにどんどん変わっていきます。でも変わらぬ大切なものを次の世代へとしっかりと残していくことが私たち大人に託された務めではないでしょうか。
 来週の11月12・13日、多くの日蓮宗岡山市内寺院では宗祖日蓮大聖人のご命日の法要「御会式」を営みます。今年で第732遠忌を迎えますが、大切な伝統は受け継がれていきます。次々と変わるものばかりに目を向けるのではなく、変わらぬ価値を大事にして次の世代へと残していきたいものです。 
 本日は、岡山市北区船頭町 妙勝寺住職 藤田玄祐がお話し申し上げました。

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