お盆のお話し(寺報今月の法話より)

この記事は最終更新日から1年以上経過しています。
記事の内容やリンク先については現在と状況が異なる場合がありますのでご注意ください。

ご存知の方もいらっしゃるかと思いますが、私の生家はさいたま市中央区にある妙行寺というお寺です。鎌倉時代に臨済宗建長寺派の末寺として建てられ、室町時代に入り日蓮宗に改宗された古い寺です。この妙行寺の山門をくぐり参道を歩いて本堂の前まで進むと、左側に石塔が建てられております。その石塔の中央には仏像ではなく、年配の女性の姿が彫られております。今では妙行寺のお檀家さんでも、このお婆さんが誰だか分かる方は殆どいないと思います。このお婆さんは、現住職である私の兄の4代前の住職のお母様で、僧侶ではありませんでしたが、所謂霊能力があり、人助けの為に、訪れた方の相談にのっていたそうです。
毎年お盆になると実家の仏間には大きな盆提灯が置かれ立派な精霊棚が設けられます。もの心のつく年になった私は子供ながらに、亡くなった人がここに帰ってくるということは理解していたようで、なんともいえない「怖さ」を感じていました。
精霊棚と盆提灯が飾られているのを見て「何か怖いなあ」と思いながらも、遊び疲れた子供の頃の私は眠さに勝てずつい仏間で寝てしまいました。すると夢の中で知らない白髪のお婆さんが着物を着て、スーっと自分に近寄ってきます。夢の中で私は金縛りになり動けません。するとそのお婆さんが怖い表情で私に「あなたのお母さんは、本堂の扉も開けっ放し、家の鍵も全部開けっ放しだから、戸締りをするように言いなさい」と怒られました。

次の日の朝、私は昨晩見た夢のことをはっきりと覚えていましたので、夢の内容を詳しく母親に話しました。すると母はとてもびっくりしたようで顔色が変わりました。後から聞いた話によると、母は3つのことで驚いたそうです。先ず1つ目は前の晩、確かに本堂正面の扉は開けたまま、家の玄関や廊下の鍵を全部閉め忘れてしまい、朝起きてからその事に気づき、私から言われる直前に鍵をかけてきたとのこと。2つ目が、私の夢に出てきたお婆さんの特長が、全て先々代住職の母親と合致していることでした。母親もその方の話は祖母から聞いていたらしく、よく着ていた着物の色までが、夢の中で着ていた着物の色と同じだったそうです。3つ目は、当時5歳ぐらいの息子から、そんな指摘を受けるとは思ってもみなかったそうです。
私の話を聞いた母は、驚くと同時に今でもその方が、妙行寺を心配し守ってくれていることに感銘をうけたそうです。息子の私からすると、母親の失敗を責められるのはかなり迷惑な話ですが、あまり霊感のない母ではなく、少しだけ霊感のある私の夢に現れ、心配のあまり怒っていたのかも知れません。これが私自身、小さい頃に体験した「お盆の少し怖い話」です。
蓮田に移り住んでからも実家の妙行寺に行きお墓参りをする際は、歴代のご住職の他「妙行寺の守り神」でもある、このお婆さんの姿が彫られた石塔に必ずお線香を手向けて、「これからもお寺をお守り下さい」と念じ手を合わせています。(康)

この記事は最終更新日から1年以上経過しています。
記事の内容やリンク先については現在と状況が異なる場合がありますのでご注意ください。

NEXT

一覧へ