“慈悲の怒り” 上田 紀行著 (朝日新聞出版 1,050円)

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「私個人としては、この同盟には反対でありました。」
「私の個人的意見は反対でありましたが、すべて物事にはなり行きがあります。」

これは、第二次世界大戦後の東京裁判での木戸幸一と東郷茂徳の発言です。

彼らのような「軍国支配者」の精神形態といっても、普通のサラリーマンと何ら変わらない、あまりにも日本人的なパーソナリティを端的に示す発言だと思います。

逆に言えば、我々の中にも、このような精神形態が脈々と生きているとも言えます。
当著書“慈悲の怒り”の副題は“震災後を生きる心のマネジメント”です。つまり「震災後、何かモヤモヤしてスッキリしない心を整理し、未来への一歩を踏み出す」事をテーマとしています。
そのステップとしてまず成すべき事、それは“人災”と“天災”に分ける事だと述べています。問題が複雑に絡み合っている現状で、ただ「がんばろう日本」で大切な事を曖昧にし、リアルな事に蓋をしてしまっては、この挫折や葛藤の「揺らぎ」という創造へ向かう大切なステップを無駄にしてしまう。これでは日本の、本当の復興を阻害してしまうのではないか?そのような危惧をされています。
問題を分ける事で“天災”には、無条件に、そして遠慮せずに「がんばろう」と皆で助け合う事が出来る。また“人災”には“慈悲の怒り”をもって徹底的に原因を追求していくべきである。
様々な思いが渦巻く“人災”に対して“怒る”という事は、日本人の最も苦手な“空気”に沿わない、問題意識を持って体制を破っていくという事です。ここでまた空気に沿い曖昧模糊にしてしまっては、日本人の心の復興も成されないまま時が過ぎていってしまう。表面的な事象に捉われず、システムや行為の根本原因まで掘り下げて徹底的に見つめ直す事で、本当に大切な事は何か?を考える事が出来るのだと述べています。
大震災から1年以上が経ち、未来を見据える事が出来るようになったこの時期だからこそ読んで頂きたい本です。
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