私がお盆の棚経を初めてつとめたのは中学二年生の時であった。熱田区の染物屋さんのお宅で、師匠の地図通り市電に乗ってその家を訪ねた。仕事を休んで初老の夫婦が喜んで迎えてくれた。仏間に通され回向を始めると、二人の話し声が後ろでする、「おじいさんいいね、首から上だよ」「ああ判ってる判ってる」。開経偈に入ると、それを合図のように二人が両手に持った渋団扇で体全体を扇いでくれた、その風の涼しく有り難かったことと同時にそれに応える人にならねばと心底思った。 数年後、お嫁さんが接待をしてくれ何年か過ぎ老夫婦が亡くなられたその初盆に、お嫁さんが「母がいつも言っていました。お寺のお小僧さんは、あんたがこの家に来る前からご縁のある人だから大切にしてくださいよ、頼みますよ」と「その言葉のお蔭で私はご先祖様、仏様に手を合わすことが自然に身についたんです」それを聞いて私は涙があふれた。今年の棚経は弟子が担当で参上した。93歳になられたお嫁さんが私のことを心配され、暑さを乗り切る秘訣をあれこれ伝言してくれた。私は83歳、それを聞いて変わらぬ心に、只感謝合掌するのみであった。
【最経寺 深沢友遠】

