なまぐさ坊主の真面目な闘病記⑦ー痰一斗糸瓜の水も間に合わず

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 この写真、誰か分かるよね?
そう、正岡子規。俳諧や短歌の革新を行った俳人・歌人として有名だ。ちなみに「子規」はホトトギスのこと。夜中に遠くの山から「テッペンカケタカ」という鳴き声が聞こえてくることがあるけど、これが一晩中続き鳴き止むことがないことから、「鳴いて血を吐く」と言われる鳥だ。子規は21歳の時に結核で喀血しており、自分自身をホトトギスに喩えてこの俳号を使った。結核で苦しんだ子規は27歳から34歳で亡くなるまでの7年間病床にありながら、多くの作品を残した。9年ほど前にNHKで放送されたテレビドラマ『坂の上の雲』で香川照之が熱演したのを覚えている方もおいでだろう。

  画像はちょっと見難いけど、子規が息を引き取る前日の明治35年9月18日に詠んだ絶筆三句だ。右から「をとゝひのへちまの水も取らざりき」「糸瓜【へちま】咲て痰のつまりし佛かな」「痰一斗糸瓜の水も間に合わず」。この三首のうち「痰一斗糸瓜の水も間に合わず」は、恐らく中学か高校の国語の時間に習ったんだろうけど、強く印象に残って今でも覚えている。ヘチマの蔓を切って切り口を容器に差し込んでおくと水がたまる。これをヘチマ水と言って、飲むと痰が切れ咳が止まるとされ、子規の家でも庭にヘチマを育てていた。ちょうどその頃、僕の家でもヘチマを育てていたので、この句が印象に残った。肝心の「痰一斗」はへえ~と言う程度でしかなかった。一斗は18リットルだから、なんぼなんでもそんなに痰が出るわけがない。誇張した表現に間違いはないが、僕の場合も喉頭蓋に炎症があるので止めどなく痰が出てティシュに吐いて捨てるんだけど、二日で大型の箱に入ったティシュを使い切ってしまう。兎に角、「痰一斗」も必ずしも誇張じゃないと思えるほど痰が出る。


 
 写真は気管切開してつけたカニューレの説明を奥さんにしているところ。このカニューレに溜まった痰は看護師さんに頼んで吸引してもらうんだけど、これがまた辛い。

 吸引するためにカニューレにカテーテルを入れると、これが気管を刺激して猛烈に咳が出る。その上、痰を吸引するということは気管内の酸素も吸引することになるので、酸欠になって苦しくなる。

 吸引してくれる看護師さんは僕が辛そうなのを見て、ある程度痰を取ったら、そこで吸引を止めてしまう。まだゴロゴロいってるのに、僕も吸引が苦しいから、「もう痰はありません」と身振り手振りで看護師さんに伝える。そうすると、1時間もしないうちに痰がいっぱいになって、また看護師さんを呼ぶブザーを押すことになる。結局は僕も辛いし、そんな僕の姿を見る看護師さんも辛いけど、しっかり痰を取らないと、吸引の回数が増えることになる。他の看護師さんはある程度取ったら止めてしまうんだけど、しっかり痰が取れるまで吸引するんで、僕が「吸引の鬼」とあだ名をつけた看護師のA・Kさんが結果的には一番上手だった。

 この吸引を日中に何度となく行って、寝る前の午後10時頃に最後の吸引をしてもらって寝る。ところが午前1時頃にはもう痰がカニューレから溢れて、ブザーを押して看護師さんを呼ぶ。もう授乳期の赤ん坊みたいなもんだ。でも看護師さんに遠慮していたら、「痰のつまりし佛」になってしまうので、夜中でも何度もブザーを押す。

 「痰一斗 吸引せがんで ブザーおす」(つづく)

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