浅ノ川病院から救急車で金沢医科大学病院に搬送された僕は、まず救急医療センターで各種の検査を受けた後、ストレッチャーに乗せられて3階の手術部へ。そんなに難しい手術ではないみたいだけど、全身麻酔するので何が起きるかわからない。奥さんとの別れ際、「大丈夫だとは思うけど、万一のことがあったら、あとは宜しく頼む」と伝えた。悲壮感が漂う。その割に僕は余裕があり、手術室の部屋番号を確認。15号室まであったけど、あとからホームページでみたら手術室は14しかない。「4」は「死」を連想させて縁起が悪いから、4号室はないみたいだ。
午後2時15分、いよいよ僕は手術台に乗せられ、まな板の鯉となった。(画像はもちろんイメージ)手術にあたってくださったのがM教授をはじめ耳鼻咽喉科の4人の先生、浅ノ川病院からついて来てくださったY先生、救急科・麻酔科の先生、これに数名の看護師さんがいて、総勢10名を超えるスタッフ。大手術の雰囲気があり、緊張感が走る。
まずM教授から僕の病状と手術内容の説明が行われる。それを冷静に聞いている僕がいる。
僕の病状は、まず左扁桃腺の炎症。これはよくある症状だけど、問題はその奥の喉頭蓋。喉頭蓋は気管と食道の分かれ目にある蓋のような部分で、食べ物が気管に入らぬよう弁の役目を果たしてるんだけど、この喉頭蓋が炎症を起こして大きく腫れ上がってて、これが実にやっかい。喉のほかの部分だと膿や分泌物は筋肉などを通して吸収されるらしい。ところが喉頭蓋は軟骨と粘膜で出来ていて、そのため炎症で生じた膿や分泌物はどこにも吸収されず、溜まりに溜まって気管を塞いでいる。このまま行くと窒息死してしまうので、先ずは気道を確保しなければならない。
そこで喉に穴を開けてカニューレという器具を取り付ける。まあ簡単に言ったら人工の鼻だ。すべてのチェックが終わって、午後2時30分、いよいよ手術が始まった。M教授が「森田さん。じゃあ始めますよ」。僕は軽く頷く。喉に穴をあける手術は局所麻酔で行う。「森田さん、痛くないですね?」と教授が聞いてくるんだけど、これがめっぽう痛い。「痛いですか?」と聞いてくれれば、「痛い」と答えるんだけど、「痛くないですね」と聞かれれば、「痛くない」と答えるしかない。教授はぐいぐいと喉に穴を開けていく。痛い、痛い、痛い。でも必死に堪える。
その時日蓮聖人の顔が浮かんだ。「大聖人、もし僕にまだ法華経を弘める使命が残っているなら、僕を生かしてください。もし、なすべき使命がないような殺してください。」とお願いし、ひたすらお題目、南無妙法蓮華経を唱えた。
気道の確保が終了し、こんどは左頸部を切開して膿を出していく。「森田さん、これから全身麻酔しますよ。」
「はい、分かりました」と返事をした途端、僕は深い眠りに落ちた。(つづく)