【くらしかるブッディズム】は、
昔から使われてきた仏教の言葉を
いま再び見つめ直すコーナーです。
第1回目は、「娑婆(しゃば)」です。
「娑婆の空気はうまい…」
古い映画などでよく聞かれた台詞です。
現代ではあまり使われていないかもしれません。
長い刑務所暮らしから
やっと解放されたとき、
こんな気持ちになるようです。
もしこの台詞を
初めて聞く人がいたら、
娑婆というところは
さぞや自然の豊かな
気持ちの良い場所なのだろう
と思ってしまうかもしれません。
真相をご存知の方が
ほとんどだと思いますが、
娑婆とはなんのことはない、
私たちが暮らす
この世界のことを指します。
しかし、何年も塀の中に
閉じ込められていた人からすれば、
外の世界はなんと
自由な世界であることか
と思えるのでしょう。
だからこそ、
空気さえも美味しいと
感じてしまうのです。
この「娑婆」という言葉は
仏教語です。
「お釈迦さまが教えを説く世界」
という意味を持ちます。
仏さまは各々
「仏国土(ぶっこくど)」という
個別の世界を持っていて、
ひとつの仏国土には
ひとりの仏さましかいらっしゃいません。
例えば、
阿弥陀如来(あみだにょらい)の
仏国土である
「極楽浄土(ごくらくじょうど)」は、
知らない人はいないと言えるほど
有名な仏国土です。
刑務所のように
自由を奪われた身の上では、
普通の暮らしが極楽のように見え、
早くそこへ行きたいと
思えるのでしょう。
しかし、本当は刑務所の中であっても
そこは娑婆世界なのです。
お釈迦さまの教えが説かれる場所です。
自分のいる世界が
仏国土であると知らないからこそ、
外に救いを求めてしまうのです。