今月のおはなし 第21回

    父と先住の四十三回忌

 昨年父親の四十三回忌を迎えた。晩年は山梨から神奈川の弟の家で療養していたが、ある朝家族を起こして「長い間世話になったありがとう」と礼をいい一杯のお酒を望まれた。今の弟子が手に器を持たせてあげると「うまい南無妙法蓮華経」と唱えて座ったまま息を引き取った。近所の医者が診察に来て「これが往生の姿ですね、立派です」と合掌されたとのことである。
 今年は先住の四十三回忌を迎える。「抹茶を飲まない日があったらその日が命日だと思ってくれ」最初に会った時の言葉であったが忘れていた。その抹茶を飲まなかった日、いつものように夕食を摂り風呂も済ませ、夜七時に寝室に入られた。しばらくして階下からお手伝いの大声がして、驚いて飛んで行くと、私に向って合掌していた、「長い間お世話になりました、このご恩は決して忘れない、必ずお返しします」と右手を差し出された。私がその手を握ると「南無妙法蓮華経」とすごい力で引っ張り「ポツ」と途切れたのが臨終の姿となった。文盲の人であったが、法華経の教えを身に納めた信心の人であった。
【最経寺 深沢友遠】

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