Y先生の診断が始まった。鼻から内視鏡を入れて喉の奥を診ていく(画像はもちろんイメージ)。
「こりゃ~、ひどいですね。すぐ入院してください。」
病名は左扁桃周囲頸部膿瘍、喉頭蓋炎、頸部膿瘍。なんだか難しい名前だけど、要するに左の扁桃腺が腫れて膿をもち、それが喉頭(のど仏)あたりの喉の奥まで広がって気管を塞いでいる。道理で、昨日の晩はご飯をのみこむ時に喉が随分痛かった。
「先生、入院は出来ません。薬を出してください。それで何とか治します。」
「どうして?」
実は5月6日と7日にZ寺さんの千部法要が営まれる。Z寺さんにとっては5年に一度の大法要で、僕はその説教を1年も前から頼まれていた。(イラストは護国寺さんから借りました)。二日にわたって何を話そうか、構想を練り始めたのが半年前。それから苦心惨憺してやっと原稿が出来、何度が実際に話してみて時間を調整し、話は完成に近づいていた。自信作でもあったし、僕がキャンセルしたらZ寺さんにどんだけ迷惑か。
「という訳で代役がいませんので、入院は出来ません。」
「そんなことしたら命にかかわるかも知れませんよ。」
「説教中に死ぬならそれも本望です。」
「駄目です。命が大事なら入院しなさい。」
結局、断り切れずに入院することになった。抗生剤の点滴で扁桃や喉頭の炎症を抑えていく。これが効果あれば何とか6日までに回復して、説教壇に立てる。一縷の望みをかけ、Z寺さんにはまだ連絡しないように奥さんに伝え、僕はベッドで藻掻きながら点滴を受けた。
ところが6時間経っても効果が現れず、症状は悪化する一方で、どんどん呼吸が苦しくなる。このままでは窒息死すると判断したY先生が慌てて金沢医科大学のM教授に連絡をとり、午後2時僕は再び救急車に乗るはめになった。(つづく)