写真は、日蓮宗管長 菅野日彰猊下が管長就任にあたり我々全国日蓮宗寺院にお送りいただいた「朝夕諷誦 日蓮聖人御遺文」という本です。御遺文全てを1ページずつ読めるように作られた全3巻本で、平成31年に頂戴してから日々のお勤め毎に読んで現在2回目を読んでいます。最初は意味の理解も覚束ないままただ読誦しているだけでしたが、読みながら段々に色んな事を考えるようになりました。
・日蓮聖人の驚くほど該博な仏教教学の知識
(法華経はもとより小乗から大乗に至るまで)
どのように記憶され、また法難等厳しい生活の中どうやって手元に経文経論を受持できたのだろうか。
・世情、政情、一般常識などの広範な教養
地震飢饉疫病など大衆の困難な生活の様子。幕府や周辺国の政治の動き(幕府に通暁する有力檀越から聞いていたのだろうか)。暦の知識(年号日付の詳細な記載)、歴史や古典などの教養、日本や周辺国の地理社会的情報(日本の人口を一桁まで言い表す場面があり読んでいて驚いた)。
・生活のご様子が伝わる
法難、流罪、食料、衣料、住環境、気候や天変地変。聖人の辛苦が偲ばれる。
・日蓮聖人の喜怒哀楽が一字一句より感じられる
読んでいる自分も御遺文に相対する中で怒られ励まされ感嘆したり心配したり、色んな気持ちで聖人の言葉に触れることができる。
・手紙を書くことの懇切さ
檀信徒への返礼をこれほど気持ちを込めてできるだろうか。お礼の言葉、信徒の状況・健康・家族への配慮の言葉、手紙の趣旨に沿った法華経への信仰を勧める説法。またその手紙をどれだけの時間をかけて書き、どうやって届けていたのか。
・当時の仏教界への思い
対立した念仏・真言・禅・律は元より、一般民衆から志と学徳をもって出家した聖人には貴族からの出家が多い当時の仏教僧への異和は大きかったのでは(僧侶の堕落に言及する多くの言葉にはっとする)
・我々が使う回向文、祈願文の典拠を知る
前後の文脈を見ることで意味をより理解したり、自分の曲解に気づくこともとても多い
・周囲の多くの人達との交わり
人と関わり続ける聖人の生きる力を感じる。
重要な言葉だけを解説した本でなく、網羅した御遺文全てを時系列順に1ページずつ読んでいくことは時間がかかる大変なことですが、そこには自分が日蓮聖人の側にいてご生涯を見ているような、日蓮聖人その人に触れているような体験があるように感じます。菅野管長様が身延山布教部長をされている時にご法話で「身延期の御遺文は涙無くして読むことはできない」と述べられていましたが、今になってそのお気持ちがわかるように思いました。あれだけのお手紙が晩年段々に言葉少なくなっていく様は聖人の余命幾許もない様子が文面からひしひしと伝わります。
普段わかりやすく解説要約した本ばかりで、原書や作者の全集などを読むことがなかった私は、御遺文の全部を時間をかけて読むことの大切さをこの本から教わりました。一般にも購入できる同じような本がないかと調べてみましたが、なかなかないようです(昭和定本や平成新修の御遺文集を1ページずつ読むのも大変ですね)願わくば手に入れやすい本が作られ、多くの人にそのような読み方をしていただく機会が増えれば、日蓮聖人のご生涯・お人柄・教えの「全体」によりよく触れてもらえるのではと思います。最後に、日々1ページずつ声を出して読むというのは修行としても最適であると思います。長々と失礼しました、何かのご参考になればありがたく存じます。